家族経営、同族経営の会社を辞めたい
同族経営でも優良企業はいくらでもあります。しかしながら「同族」でない場合は、出世、昇進も自ずと限界があります。「同族」でない人間にとっては、一生涯「番頭さん」で終わる覚悟があるかどうかでしょう。上昇志向の強い人間にとって同族経営は、窮屈な職場環境かもしれません。
ある卸売業の会社がありました。取扱い品目は主に住宅建材です。メーカーから仕入れた建材を公務店や内装工事業者に卸す仕事です。
その会社は同族経営でした。長男が社長、次男が専務、三男が常務という非常に分かりやすい人事を行っていました。先代の創業者は既に亡くなっています。
会社内は三兄弟の子供、子供の配偶者だらけです。同じ苗字の人間であふれかえっています。会社内では、社長と違う名前の人間の方が少ない状況でした。
ある時までは兄弟三人、仲良くやっていました。ところが、次第に専務である次男が不満を抱き始めます。
因みに、この三兄弟の中では次男が一番の野心家で仕事も一番出来ました。実質、会社の利益のかなりの部分を次男である専務が一人で叩き出しています。
次男の言い分としては、「オレの方が仕事ができるのに、先に産まれたという理由だけで、何故アニキのケツを、ずっと嗅いでいなければならないのだ?」
「あほくさ、やってらんね。会社を割って独立しよう」
専務は、このように考え、行動に移し始めます。
まず、現在の社内で営業成績の良い人間を口説きにかかります。
「一緒に独立しようぜ。役員にしてやるよ」
口説かれた営業成績の良い人間は小心者なので、簡単に首を縦には振りません。
次は社内にいる自分の娘、ならびに娘婿です。こっちは簡単です。
専務である次男が計画を打ち明けると簡単にのってきました。
「お父さんについていきます」
娘は事務員に使う予定です。娘婿は営業成績はいまひとつなのですが、頭数としていないよりいた方が良いでしょう。何よりも娘婿なので自分が去る会社に置いておくわけにもいきません。
問題は、社内でトップセールスの男です。この男さえ口説き落せれば営業成績は、それなりのものになるはずです。
このころになると次男である専務の不穏な動きが、皆に知れ渡っています。会社内は社長派と専務派に分かれていがみあっています。非常に分かりやすい派閥争いです。
ある意味、血肉を分けた親族での争いは赤の他人の争いよりも醜いものです。
結果として次男である専務は自分の息のかかった人間、数名を連れて独立を果たしました。
足りない分の頭数は、適当に採用して間に合わせました。
この後、生え抜きの社員を引き抜かれた社長(長男)は、会社経営に絶望したのか自殺しました。クビを吊って亡くなっているところを家族に発見されました。
次男は結果として自分の兄を死に追いやりました。長男が亡くなったので三男が後釜の社長になりました。
それで、念願の独立を果たした次男ですが、最初のうちは鼻息も荒かったようです。新会社の人事は自分が社長、騙くらかして連れてきたトップセールスの男を専務、自分の娘婿を常務にしました。
しかしながら、会社の経営は呪われたかのように上手くいかなかったと言います。ほどなくして資金繰りが悪化、「役員にしてやる」と言って丸め込んで連れてきて専務に据えた男に給料も出せないような状況になりました。
「役員になるのだから」という理由で、この専務に据えた男に資本金として700万円を出資させましたが、それも焦げ付きそうです。更には小心者の専務に対して、銀行融資が厳しいので自宅を担保にさせてくれ、とまで言い出す始末です。
結果から言うと、数年で独立を果たした次男の会社は倒産しました。負債総額は当時の金額で2億7000万円でした。
会社が倒産したので次男の娘婿と娘は離婚しました。
次男の自宅は、当然、銀行抵当に入っていますから差し押さえです。その後、次男は原因不明の病気にかかり、寂しく亡くなって行きました。
その葬儀には、当然のことながら兄や弟の親族は誰も来ません。娘と孫だけのひっそりとしたものだったと言います。
一方、小心者の専務ですが、彼は同じような建材会社に再就職を果たしました。役員としては不適格だったかもしれませんが、営業のセンスは衰えていないようで、その再就職した会社で再び、トップセールスに返り咲いたそうです。
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